2017年から2018年にかけて4ヶ月間のアメリカ滞在の記録、記憶、小説的な、哲学的なエッセイ。知識人が洋行体験をテクストにすること、これ自体はとても伝統的な形式だと思うのだが、過去のテクスト群が海外のカルチャー、政治、人間、土地の模様を紹介するものだったのに対して、本書は「アメリカ紀行」でありながら常に日本が参照されつづけ、両国の関係性のなかで浮かび上がる思考が転写されているところに特徴を感じる。時折、唐突に挿入される日本のテレビの記憶や、日本人が見知ったイメージは顔を綻ばせるものがあるし、問題を一貫して論じていくスタイルではなく、断片的に提示していくところも「今の気分」っぽい。つぶやき的。ふと「断片的」というキーワードから岸政彦を思い出すも、その断片化はまるで違う水準でおこなわれている。まだ、なにが違うのかを明確に書けないけれど、思考の断片化と断片的な生の記録の違いなのか、あるいは記録するものと記録されたものの違いなのか。