吉田秀和がひたすら好きな曲について詳しく解説していく文章を集めている。有名曲ばかりではなくヤナーチェクのオペラやヴォルフの歌曲などほんとうに個人的な偏愛曲のようなものも含まれている(ヤナーチェクのオペラ! それに手を伸ばそうという人が我が国にどれだけいるのか! しかしながら、現在の音楽視聴環境は気になればその音源にすぐさまアクセス可能なよう整えられているのである。インターネット万歳)。
面白い本だと思うのだが、読んでいて「あー、自分は〈音楽〉じゃなくて〈演奏〉のほうに興味があるのだなぁ」という改めての気付きがあった。譜例や楽理的な解説が挟まれていても、それを読むだけの能力は自分にはなく(クラシック音楽を20年以上聴いていても、そういう勉強は全然してなかった)、熱く楽曲の構造を解説されてもほとんどわからないのだった。吉田秀和が(たとえば)ピアニストの演奏について語っている文章よりも、この本は難易度が高いものなのだと思う。
ただ、それでも読んでいて「本当にそうだよなぁ」と共感してしまう文章も綴られていて、そういうのは驚いてしまった。バカみたいな言い方になるけれど「俺もそう思う!」みたいな箇所に出会ったりして。とくにリヒャルト・シュトラウスの《ばらの騎士》を取り扱った箇所で、著者はこのオペラをクラシック音楽、というか音楽のみならずヨーロッパの文化のある種の最高到達点のように書いていて、たまたまその箇所を読む前に《ばらの騎士》を聴いていて似たようなことに感じ入っていたのだった。