1952年〜2022年までの坂本龍一の活動を記録した評伝。音楽活動が中心となっているので若い頃を除いてはほとんどプライヴェートな部分に関する記述はなく、歴史の教科書のように淡々と事実が並べ連ねられている。悪く言えば淡白でやや退屈。その傾向はとくに近年の記載でより強くなる*1。
学生時代や駆け出しの時期の記述には読んで面白い秘話的なものがあるし、売れっ子スタジオ・ミュージシャンの時期から「世界のサカモト」期まで本当に驚異的な仕事量であることには驚かされる……のだが……坂本龍一本人は本書にどこまで関わっているのだろうか。造本ひとつにとっても、表紙の硬い紙と本文の紙がキレイに切りそろえられていて、それは坂本龍一っぽいデザインだとは思うのだが、切りそろえることで生まれるであろう余計なゴミについては本人はどう考えるのだろうか……とか考えてしまう*2。
坂本龍一の本のこの造本、キレイなのだが、製造工程で余計なゴミが出そう(これ、最後にカットしてるわけですよね pic.twitter.com/sAZpZCR1S8
— m.$.t.k. (@mk_sekibang) 2023年3月10日
また、この造本、角がめちゃくちゃ立っているので読んでて手が痛くなる。まったく見た目本位の非・デザイン、って感じである。
また校正もなかなかの甘さであり、自分が気づいただけで「山本英夫(山木秀夫)」、「トラウト・ロック(クラウトロック)」、「ラベル(散々ヴを使ってるのに「ラヴェル」じゃない)」、「村治香織(村治佳織)」、「ビヨーク(ビョーク)」、「ザ・レヴェナント:蘇りし者(レヴェナント: 蘇りし者)*3」など細かいものから信じられない間違いまで読んでいてかなり萎えた。こういうのは出版社の力が弱まっている、ということなんだろうか……。いやー、坂本龍一の本でこれかぁ、みたいな。
特装版には完全ディスコグラフィーが付録としてついてきて、そのデータは貴重だと思うし、本書自体も記録として貴重、大変な仕事であるとは思うのだが、いわゆる「YMOおじさん」が書いた本……って印象。そもそもこれを「評伝」呼んで良いものかも怪しい。本書の大部分が、首相官邸のサイトにある「総理の一日」みたいな単なる行動履歴に過ぎないという見方もできる。