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文化的消費活動の日記

マヌエル・プイグ 『天使の恥部』

 

読んでいるあいだは面白いけど、あとから内容をまったく思い出せない、そういう本があるけれど、プイグの小説は自分にとってまさにそれで『蜘蛛女のキス』も『ブエノスアイレス事件』もそうだった。きっと『天使の恥部』もそのパターンにハマるだろう。過去・現在・未来。メキシコの病院で死にかけている女の(無)意識や記憶が過去の映画女優ディストピア的未来に老人や障害者の性処理に従事する女に繋がって複層的に語られていく作品なのだが、はっきりどこがどう繋がるのか、結局なんなのかが明示されることはない。で、なんなの? と問われたら、ただ、語りの上手さだけで成立させてしまっているところがあって……とお茶を濁すしかないかもしれない。とくに未来編はSFを苦手とする自分でも面白く読んだ。1976年に発表された本作のなかで、件のセックスワーカー女性は、ポケットコンピューターを駆使している。そのコンピューターは複数のキーワードを入力してボタンを押すと答えが返してくれるらしい。それってGoogleじゃん、と驚きつつも、セックスワーカーの勤務管理がパンチ式のタイムカードによって管理されている、その当時っぽさ、このギクシャクした感じが良い。