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文化的消費活動の日記

『ジョアン・ジルベルト読本』

 

中原仁監修によるジョアン・ジルベルトのムック。入門、ではなく、読本、なので(?)ある程度、ブラジル音楽に親しみがある人向けの本なのだが、詳細なバイオグラフィのみならず、ディスコグラフィ、とくにジョアン没後に発表された晩年のライヴ音源なども紹介されているのが嬉しい。そのコードワークやギター奏法、歌唱法の革新的/独自の音楽性によってサンバから新たにボサノヴァというジャンルを創造した音楽家、でありながら、古いサンバを発掘し産み直した、ジョアンの2つの側面を深く掘り下げている。もっともそうした研究的な、分析的な文章よりも心を揺さぶるのは、2003年、もはや伝説と化した初来日公演の舞台裏について書かれた宮田茂樹の文章だ。ここにはその気まぐれや繊細さ(?)によって周囲を振り回してきたレジェンド・ミュージシャンと、我が国、日本の幸福な出会いが記録されており、その出会いの奇跡に涙せざるをえない。音楽に関する文章でこんなに泣いたことはない、ってぐらいに感動した。ジョアン・ジルベルト、日本に来れてよかったね、って素朴に思う。