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文化的消費活動の日記

宮本彩子 「クレソン」

「第32回やまなし文学賞」を受賞された宮本彩子さんから受賞作品が掲載された冊子を送っていただいたので早速拝読。宮本さんの作品は、もう10年以上前に一緒に同人誌活動をしていたときも、その後に文学賞に応募していた作品も読ませていただいてすごい才能と思っていたけれど、今回の受賞作「クレソン」は、長めの短篇のサイズ、あっという間に読めてしまう文量のなかで、心理的な起伏がいくつも配置されており、あらすじで説明できること以上の出来事が起こっているように思った。一番に物語の密度を感じたかもしれない。それは、ある特定の経験をもつ女性の共感を呼ぶ物語、としても読めるし、一見平凡とも言える女性の生の、淀みのようなもの、薄暗いもの、ふんわりとした不安、あるいはそれに対峙するまた別な女性の危機とが重なり、緊張が生まれ、最後に少し希望の光のようなものを予告しながら閉じられる、その余韻も素晴らしい。