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文化的消費活動の日記

仲正昌樹 『ヴァルター・ベンヤミン: 「危機」の時代の思想家を読む』

安定の仲正解説本。ベンヤミンのテキストを精読していった講義をもとにしたもので、同著者による現代思想・哲学解説本のなかでもかなり細やかな仕事、という印象。だが、大変勉強になる一冊。ベンヤミンってそういう人だったんだ、と改めて知ることも多く、とくに『複製技術の時代における芸術作品』を取り扱った後半部分、そのなかでも映画という新しいメディアついてベンヤミンの語りを読み解いている箇所がかなり面白い。もっとも、映画というのは観客(消費者であり、資本と結びついている)によって支配されたメディアであり、そこには大衆の(無意識の)欲望が反映されている……みたいな語りは鼻白むものがあるしどうでも良いし、ベンヤミンが語るアウラ、舞台のように観客の前で演じる一回性のアウラが映画では奪われている、みたいな話もどうでも良い。けれども、映画は機械(キャメラ)の前で演じたもの編集し、またさまざまな撮影効果をほどこされることで、リアルな認識を超えた別様な表現になりえる、みたいな話には惹かれるものがある。映画ってそういうものだろう、とは思いつつ、今・ここ、ホンモノの現実、一回性、を超えゆくものとしての映画、それが散種的な生産と繋がっても読めたり。