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文化的消費活動の日記

谷崎潤一郎 『細雪』

 

細雪 (中公文庫)

細雪 (中公文庫)

 

古今東西の大長編小説のクラシックをあまねく制覇してやりたい、という気持ちに数年来断続的に取り憑かれている。それで谷崎の『細雪』に手をつけた。わたしはこの作家について「好きな人はめっちゃ好きだよね〜」ぐらいの認識でしかなく『源氏物語』の現代語訳という大仕事しか知らなかったのだが、今回代表作のひとつとして知られる本書を読んで「谷崎、ヤバすぎ! 面白過ぎでしょ!!」とイチイチ驚愕しながら読むはめになった。中公文庫で1000ページ近くある大長編なのだが、管見の限り、近代日本の小説で一番面白い小説に今回出会ってしまった感がある。

時は昭和十年代のなかば。阪神地区の良いところで昔はめちゃくちゃ羽振りが良かった旧家、蒔岡家の四姉妹、そのうち三番目の娘である雪子の嫁入り話を中心にストーリーは進んでいくのだが、この1000ページ弱のなかには、ややこしい恋愛やら人間模様やらが濃密に描きこまれており、さらにはディザスター・ムーヴィーばりの活劇さえ含まれるのだから恐れ入る。当時のカルチャーやファッションも事細かに織り込まれており、固有名詞の用い方なんか村上春樹みたいにも思うのだが、その詳しさはなんだかおじさんなのに女子ファッションに詳しすぎてキモい、けどスゴい、つまりキモスゴいことになっている気もする。また、本書のなかには映画のタイトルもよく出てきて、作家も映画にはかなり親しみをもったに違いないと思うんだけど、映画のワンシーンから拝借したような映像的な筆致にも「文章うめーな!」とバカの感想を漏らしたくなる。

前述のとおり、「雪子の結婚」が本書の中心主題となるわけだが、実は雪子自体はとくになんもしない小説とも言える(そのなんもしなさが波乱を生んだりする)。本当の主人公は雪子の結婚のために奔走するそのひとつ上の姉、幸子であり、その夫の貞乃助であって、この夫婦が色々気苦労したりする様子は、30代も半ばに差し掛かったわたしには、すごくよく共感できた。