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文化的消費活動の日記

『伊丹十三選集 第2巻: 好きと嫌い』

 

好きと嫌い

好きと嫌い

 

第1巻に引き続き。前巻が「伊丹十三レアトラック集」的な位置づけだったのに対して、こちらは伊丹十三の標準的な、普通の、面白いエッセイがまとめられている、と言っていいと思う、のだが、うーん……どう考えても「ベスト」ではないな、と。セレクテッドなものに対して「アレもコレも入っていない」と難癖をつけるのはとても無粋な行為だとはいえ。昔「実はディランってベスト盤しか聴いてないんですよね」という話をしたら「ベスト盤じゃディランは語れないよ!」と言われたことを思い出すような。

本書に収められている文章は、ほとんど文庫になっているし、この選集から伊丹十三を読み始めるよりも普通に以下の2冊から読むのが良いのかな、と思う。編者のひとりである建築家、中村好文の文章は結構面白いんだけど、これもマニア向け、というか。

ヨーロッパ退屈日記 (新潮文庫)

ヨーロッパ退屈日記 (新潮文庫)

 

 

女たちよ! (新潮文庫)

女たちよ! (新潮文庫)

 

 

関連エントリー

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『スクラム実践入門: 成果を生み出すアジャイルな開発プロセス』

 

スクラム実践入門 ── 成果を生み出すアジャイルな開発プロセス (WEB+DB PRESS plus)

スクラム実践入門 ── 成果を生み出すアジャイルな開発プロセス (WEB+DB PRESS plus)

 

アジャイル開発の現場で用いられることが多い「スクラム開発」という開発プロセスの手法と、それを採用する会社(DeNAGMOペパボmixi)における実践例・失敗例をまとめた本。手法的な話については、Webでも学習できるのだけれども*1、実践例・失敗例が読めるところが良かった。

先のエントリーでも書いたけれど、チームで仕事を進めるうえでアジャイル開発プロセスから学ぼうとしていること(学ぶべきこと)は多いと思っている。長いプロジェクトでもスクラムのように短いスプリントに切っていって進めたほうが、メンバーも「自分たちがちゃんと前に進んでるゾ」という感じがして、きっと良いんじゃないか、とか、そのぐらいの低いレベルでしかまだ考えられてはいないのだけれども。

だからウォーターフォールか、アジャイルか、みたいな二元論はあまり意味ない。アジャイルが目的化してしまう、という暗澹たる事例も見受けられたりする。

新人ITコンサルタントの育成について(推薦する本、そして仕事をする上での基礎的なナレッジ)

自分用メモ。随時更新。

できるようになってほしいこと

  • ITについて基本的な原理からザックリとした理解を持っておく(技術によってできそうなこと、できなさそうなことの見通しがついたりする)
  • できるだけ効率的に働くためのスキル・技術を習得する(効率化によって生まれた時間で遊んだり、勉強したりしよう)
  • 会社が変わったり、潰れてもやっていける基礎体力を身につける(今の所属に最適化されすぎた能力はよろしくない)

小言的ななにか

  • 良い習慣を身につける(毎日○分○を勉強する、とか)
  • 同じ作業でも次やるときはより効率的な方法がないか考えながらやる。工夫できることがないか探し続ける
  • 勉強にはなるべき自分で金を出す(そのほうが身に付く)
  • クソみたいなビジネス書なんか読むな。読むなら腹にたまるものを読もう

1〜3年目のToDo

情報処理の資格取得

  • 入社3ヶ月以内にITパスポート取得
  • 入社1年以内に基本情報処理技術者取得
  • 気が向いたら応用情報も
  • 資格は勉強をするきっかけとして考える(資格取得を目的化しない)

業務知識の習得

  • 会計、法律はどの業界でも役に立つ(可能性がある)

一般常識・マナーの習得

  • お客様に変に思われない程度で良い
  • 身だしなみは重要。おしゃれである必要はない。普通で良い。ダサい・不潔はNG

 

推薦する本・サイト

ITの基礎知識

ディジタル作法 −カーニハン先生の「情報」教室−

ディジタル作法 −カーニハン先生の「情報」教室−

 

総論的なストーリー。基本情報処理技術者取得時のサブテキストとしても。

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コンピュータシステムの基礎 第17版

コンピュータシステムの基礎 第17版

 

 

アルゴリズムの基礎 第2版

アルゴリズムの基礎 第2版

 

デカくて重くて冗長で高い本だが、良い本だと思う。 

業務知識

会計学入門〈第5版〉 (日経文庫)

会計学入門〈第5版〉 (日経文庫)

 

ここから派生して簿記をとっても良いと思う。

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飯田のミクロ 新しい経済学の教科書1 (光文社新書)

飯田のミクロ 新しい経済学の教科書1 (光文社新書)

 

 

コンパクトマクロ経済学 (コンパクト経済学ライブラリ)

コンパクトマクロ経済学 (コンパクト経済学ライブラリ)

 

経済学は教養として知っておく。 

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泣きたくないなら労働法 (光文社新書)

泣きたくないなら労働法 (光文社新書)

 

法律のことはいまいちわたしも分からないんだけど、これはためになった。

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実務で役に立つ

コンサル一年目が学ぶこと

コンサル一年目が学ぶこと

 

基本的なことしか書いてないが、良い本だと思う。 

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ソフトウェア・テストの技法 第2版

ソフトウェア・テストの技法 第2版

  • 作者: J.マイヤーズ,M.トーマス,T.バジェット,C.サンドラー,Glenford J. Myers,Todd M. Thomas,Tom Badgett,Corey Sandler,長尾真,松尾正信
  • 出版社/メーカー: 近代科学社
  • 発売日: 2006/08/01
  • メディア: 単行本
  • 購入: 7人 クリック: 267回
  • この商品を含むブログ (47件) を見る
 

テストケースの立て方、考え方の整理。

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関数は「使える順」に極めよう! Excel 最高の学び方 (できるビジネス)

関数は「使える順」に極めよう! Excel 最高の学び方 (できるビジネス)

 

Excel覚えて効率化(自分では読んでないが良さそうだったので妻用に買った)。

全面改訂版 はじめてのGTD ストレスフリーの整理術

全面改訂版 はじめてのGTD ストレスフリーの整理術

 

タスク管理の本。「自分はどうしていっぱいいっぱいで仕事しているのだろう……」と悩んでいる人には一読をおすすめしたい。昔、自分用、後輩用、部署で回し読みする用で3冊買った。

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やってはいけないデザイン

やってはいけないデザイン

 

パワポを作る際に参考になる。

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プログラミング学習

prog-8.com

無料でも結構使えるプログラミング学習サイト。ブラウザで完結し、自分で環境構築をやらなくて良いのが手軽で良いと思う。プログラミングについては経験必須ではないが、経験があったほうが仕事の理解が進むと思う。

ナレッジ

議事録のとり方

  • 会議の名前
  • 日付(場所)
  • 出席者
  • 決まったこと
  • 次までにやること
  • 会話のログ

上記が必要事項。議事録を取らされる仕事を振られがちなので、最初からアウトプットを意識しながら会議に出席すること。自分で議事録を書くなら、決まったこと、次までにやることを会議中に確認する。会議の音声を録音してあとから作成する……みたいやり方は効率が最悪(ダメな新人の典型例)。会話ログはダラダラ書かない。

仕事をうけるときに把握すべき点

  • その仕事の背景や目的
  • 具体的な仕事の成果イメージ
  • クオリティ
  • 優先順位・緊急度

以上は『コンサル一年目が学ぶこと』より引用。これに加えて

  • いつまでにやるのか

を必ず確認する。

思考を構造化する

  • 思考の構造化(PDF資料)。雰囲気はこんな感じ。構造化手法はいろいろあるけど、なんでも良い。
  • 議事録の会話ログ、プレゼン資料、自分の自己紹介、いろんなことに応用可能
  • 構造化されてるとそれっぽい。それっぽさが大事

身だしなみについて

kashiyama1927.jp

オーダースーツのお店のブログ。スーツを着るうえでの「基本ルール」が書いてあるので、とくにマニュアル本とかは買う必要ないと思う。オーダースーツを着ろ、とは思わないが(自分も既製スーツだし)自分の体に合ったサイズのスーツを着ないとお客様から「ダサい」と思われてしまう。サイズをあわせる。そしてなにより清潔感が超重要。この最低条件を満たしたうえで、

  1. ネイビー無地
  2. ネクタイも無地(赤・青・茶など)
  3. シャツも白で無地(シワがないこと)
  4. 革靴も黒(ストレートチップ。ちゃんと磨いておくこと)
  5. ベルト、腕時計のベルト、靴下も黒

で揃えてしまえば、考える必要がなくなり、むしろ楽。

マネジメント・育成する側向け

自分の部下は責任をもってあずかるべき。よって、マネジメントする側、育成するも学習が必要。どのように学習すれば良いのか。

Salesforce Trailheadの利用

セールスフォース・ドットコムが公開している教育コンテンツのなかにマネジメント手法に関するものが用意されている。とても参考になる。

trailhead.salesforce.com

開発のプロジェクトにアサインされている場合、それがウォーターフォール型のプロジェクトであったとしても、アジャイル型のメソッドのなかにうまくプロジェクトを回すためのヒントがある。ウォーターフォールアジャイルの二元論的な議論は意味がない。良い習慣を取り入れるべき。

trailhead.salesforce.com

推薦する本 

自分の頭で考えて動く部下の育て方 上司1年生の教科書

自分の頭で考えて動く部下の育て方 上司1年生の教科書

 

大変良い本。部下が自発的に動けるようになるためのトレーニングをどのようにさせれば良いのか(しかも自分よりも年上だったり、ベテランの人にどう接するかまで案内がある)を提示している。 

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ブックガイド

blog.kentarok.org

育成にとどまらない組織デザインなども含めたマネジメントのためのブックガイド。いろいろ参考にさせていただいています。

白洲次郎 『プリンシプルのない日本』

 

プリンシプルのない日本 (新潮文庫)

プリンシプルのない日本 (新潮文庫)

 

なにをした人かよく知らないけれど、白洲次郎の「都心からちょっと離れた田舎で農業しながら道楽する、みたいな」ライフスタイルって良いよね、とは思っていて彼の邸宅であった武相荘にも足を運んだことがある。なかなか素晴らしい空間で、茅葺屋根の昔のお百姓さんの家のなかにガチな洋間があったりして、あの和洋折衷は『& Premium』的なものを先取りしているよな、と感心した。

で、一体どういう人だったのか、と思って本書を手にしたのだが、わたしのような「白洲次郎ってなんかカッコ良いじゃん」っていう関心の持ち主からすると、正直全然面白くなかった。1950年ごろの『文藝春秋』に寄稿した文章が収録されているのだが、当時の世の中についてとにかくブーブー言ってる、という感じであって、どうにも読みどころが。本人が政治とか経済っていうのは民草のために上手いことやらなきゃいけないんだよ、という思想の持ち主だ、ということはわかるのだが、これだけ読まされると……。

國分功一郎 『スピノザ 『エチカ』』(100分 de 名著テキスト)

 

スピノザ『エチカ』 2018年12月 (100分 de 名著)
 

坂本邦暢さんがスピノザの『エチカ』への入り口として強く勧めていたので読んでみた。たしかに、すごいわかりやすさ。大昔に『スピノザの世界』を読んで以来、わかっているような、いないような居心地が悪い状態でいたスピノザ理解がスッキリ整理されてしまった感じ(もちろん、本書を読むまでのあいだにいろんな蓄積があったわけではあるけれど)。

「この世界はぜんぶ神なんだよ」と説くスピノザ。その世界観において、じゃあ、我々人間の意思はどうなるのか、全部神なら今ここにいる俺 is 何みたいな話になってくる。この議論については『中動態の世界』とも重複しているのだが、より噛み砕かれて説明されている(個人的には根気がなくて読みきれなかった『中動態の世界』の議論の一部がようやく腹落ちした)。

スピノザの独特なテクニカルターム・哲学概念(様態とかコナトゥスとか神即自然とか)が異常にわかりやすく説かれており「こんなにわかってしまって良いのだろうか!?」とよくわからない不安にさえ駆られてしまう。Kindleだと500円もしないで読めてしまうんですが、こんなにためになる(?)のに。こんなに安くて良いんでしょうか? テレビ番組のほうは見ていないのだが、たぶん、大丈夫です。テキストだけで完結している、ハズ。

関連エントリー

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戸田和幸 『解説者の流儀』

 

解説者の流儀

解説者の流儀

 

元日本代表で現在はサッカー解説者・指導者として活躍する戸田和幸の著作。自身のサッカー解説者としてのポリシー、現役時代の振り返り、世界のサッカーの潮流や日本のサッカー、あるいは日本のスポーツ・メディアについて語る。時期的には2018年のワールドカップ直前、ハリル解任直後までがフォローされている。サッカーにおける戦術の重要性(プレイする側、そして観戦する側にもその理解が必要とされる)、そもそも現代サッカーはどういったものなのか、という話をしつこいほど説いており、わたしのような「代表戦しか見ない」レベルの関心の人にはただただ勉強になるばかり。

告白すれば、わたしはほんのちょっと前まで「なぜサッカー・ファンは監督でもないのに戦術について語るのか(その熱量が怖いし、不自然)」と思っていた。たかがスポーツでしょ、もっと自然に観戦を楽しめないのか、と。

しかし、ちょうど前回のワールドカップをテレビ観戦するうちに、ようやくシステムや戦術について知らなければ、サッカーは全然面白くない、というか、そうした監督目線、批評家目線になるためのリテラシーを身につけることがサッカー観戦をより愉しくさせる、という気付きが生まれ、それは先日のアジアカップの代表戦を見るうちに確信に変わった。本書もまたその確信を後押しするもの。そして「サッカー観戦がしたい!」という気持ちにさせられる(たぶん、時間がなくて相変わらず代表戦しか見ないだろうけれど……)。

ところで、著者の解説者への転身とその後の「株」の上がり方については、予想していなかった人も多いと思う。戸田、といえば2002年日韓ワールドカップにおけるスキャンダラスの赤髪モヒカンヘアーであり、品性に欠ける、といったバッシングがまず思い出される。

蓮實重彦『スポーツ批評宣言』でも、この件への言及があったな、と思って確認してみたら、やはり批判的な言及(日韓ワールドカップで「髪型」といえば、優勝国ブラジルのロナウドベッカムヘア、など他にも話題がある)。当時の日本代表の「知性」といえば、中田英寿に象徴されていて、蓮實重彦もそういう取り上げ方をしている。つまり、みんな本書の著者について「知性」を感じ取ってないのだ。

その戸田が今、こうしたインテリジェンスを発揮するとは……という端的な驚き(「知性の象徴」だった選手が現時点で隠者のようにしか見えないことが、その驚きを対比的に大きくさせている)、そして、それを身につけるために著者がおこなっている努力(まさに「解説者の流儀」)への驚愕が本書の読みどころのひとつでもある。

横山剣 『僕の好きな車』

 

僕の好きな車 (立東舎)

僕の好きな車 (立東舎)

 

「東洋一のサウンドマシーン」、クレイジーケンバンドのフロントマン、横山剣がタイトルどおり好きな車について語りまくるコラムを一冊にまとめたもの。一言で言うと大名著。最高です。71本のコラムが収録されており、毎回ひとつの車種をメインに語っている。タイトルに取られていないけれど、言及されている車種も含めれば100台ぐらい登場するんじゃないだろうか。

著者が子供のころにシビれた車の記憶から、印象に残る現行車種まで幅広く取り上げられているのだが、とにかく記憶のディテールがスゴい。これはまるで「車版の『失われた時を求めて』」のよう。「マツダの車にはセ・リーグに対するパ・リーグのような自由度を感じる」など金言も満載だ。

読んでいて、自分もそういえば小さい頃、車が好きだったよなぁ、と記憶が蘇った。そう、なんと言ってもわたくし、元自動車整備工の息子であり(父は義理のお兄さんが経営している整備工場に勤務していた)、中学1年ぐらいまで「自分も自動車整備工になるのかなぁ」とぼんやり思っているぐらい車が身近な存在だったのだ。ミニカーも大好きだった。

いつの間にか車と縁が遠くなっていたけれど、子供が生まれてミニカーを買ったり、ちょうど1年ぐらい前に車を買ったりしているうちに、遠くなっていた車との距離が近くなっているところに本書である。

本書にも名前が頻出するけれどイタリアの名デザイナー、ジョルジェット・ジウジアーロが手がけた車のカッコ良さとかを再確認したりして「あ、俺、まだ車好きなんだな」って。次に車を買い換えるなら……などと今から考えてしまっています。たぶん、その頃には40歳過ぎていて「おじさんのビギナー」から「おじさんの中堅」ポジションに移行しているぐらいだと思うので、おじさん臭いセダンに乗りたいな……とかね。

著者が聴いている音楽の話も「この車で聴きたい音楽」という形ででてくるのだが、その幅の広さも意外で面白かった。ceroとか最近のバンドの名前が出てくる(一番意外だったのはパスピエ)。そういう語りも「車の愉しみ」を伝えるもので良い。東京都周辺に暮らしていると、車は贅沢品、車なんか不要、という考えに支配されてしまうし、それは「ごもっとも」なんだけれども、単なる移動手段を超えたカルチャーとしての車の魅力を再確認させてくれる。