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文化的消費活動の日記

パオロ・ロッシ 『魔術から科学へ』

魔術から科学へ (みすずライブラリー)

魔術から科学へ (みすずライブラリー)

 

原題は Francesco Bacone: Dalla Magia alla Scienza なのだが邦訳では本書の主人公であるイギリスの哲学者、フランシス・ベイコンの名前がどっかにすっ飛んでしまっていて、なんの本だかわからなくなっている気がする。このタイトルだとだれもが「魔術から科学へとパラダイムが変化する通史を追った本」を期待するんじゃないか……。

「フランシス・ベイコンの思想のなかに近代科学に通ずる認識があったのであーる」的な本なのだが、この紹介もなんか歯切れが悪い気もする。読んでも「ベイコン、面白いな!(すごいな! 近代に通じるな!)」とパッと理解できなかった。

プラトンだのアリストテレスだのといった哲学的伝統を批判する立場にベイコンはいた。けれども「プラトンとかアリストテレスとかって基本は正しいんだよ! けど後世の人がその道を歪めてるから、俺がもう一回正しい哲学のやり方に戻すよ!」的な感じなのだ。本書ではベイコンの仕事とデカルトのそれの比較もおこなわれているのだが、デカルトが「これまでの学問は全部ダメ! 俺が新しい哲学を始めるんだ!!」と張り切っていたのと比べると、ベイコンのインパクト弱くない? と思ってしまう。

要するに伝統への批判、そして伝統との連続性のなかにベイコンが置かれ、その新古典主義的な読み替えの妙を感じ取るには、もうちょっとテクストを真面目に追う必要がある。とくに本の後半、ベイコンがラムスの思想の影響を受けつつ弁論術を自然を記述する新たな方法として作り変えていくくだりは「おお、なんかカッコ良いことが書いてあるな!」ぐらいになってしまってついていけなかった。

好事家向けには3章の「古典的寓話と科学改造」が面白いと思う。「古代人たちが遺した神話のなかには世界の真理が隠されている!」と考えていたベイコンの神話解釈について言及した部分。柴田和宏さんがベイコンの神話解釈に関する論文を紹介していたのを思い出した。

d.hatena.ne.jp

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