伊丹十三の「新刊」である『ぼくの伯父さん』が出たのが1997年。これは死後20周年だったが、昨年末には岩波から選集の企画がはじまっている。ファンとしては買わずにはいられない、ということで内容も特別チェックせずに第1巻を買い求めた。伊丹が古代の日本に取材したドキュメンタリー番組「伊丹十三の古代への旅」(1977)の内容を書き起こしたものが文章としては初出。それ以外は、すでに読んでいたことは買ってから気がついた。現在は入手がやや難しい奇書(としか言いようがない)『フランス料理を私と』に収録された文章が読めることに価値がある……かな?
「日本人よ!」というタイトルの本は、伊丹のビブリオグラフィーには存在しないし、伊丹十三が日本人に関心があった、とか、日本人論を持っていたか、というイメージは、本書を読むまで持たなかった。わたしのイメージは、どちらかといえばその逆で、外国に強い関心を持ち続け、外国にある「ホンモノ」をどうにか日本に輸入しようとした人、というものであった。日本は素晴らしい、と礼賛する文章をわたしは伊丹十三のエッセイで読んだ記憶がない。褒めるのはかつての伝統であり、文化。「ニセモノ」、あるいは「日本人の感性に対する苛立ち」は本書に収録されている文章でも確認することができる。第1巻は、日本人の起源と天皇という存在への関心、そして日本人へのいらだちを軸にコンパイルされたものに思えた。
『メンズプレシャス』で特集された伊丹十三のファッションの変遷は、徹底した脱日本人志向に気づかせる(晩年には中国服に傾倒し、日本から西洋へ、という方向性でなく、独自の進化を遂げた)。しかし、残された写真などを見ると、そのライフスタイルは、徹底して日本人だった、というまったく逆の印象を抱くこともできる。プロ並みのフランス料理を作る一方で、火鉢を愛用していたり、はっきり言ってめちゃくちゃであるのだが、それが破綻でなく、調和してみえたところに伊丹十三の天才があったのではないか、と。そして、その姿は本書で伊丹が苛立つ日本人の姿とも重なっても見える。
メンズプレシャス2018年冬号 2019年 01 月号 [雑誌]: Precious(プレシャス) 増刊
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