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Nouvelle茶人、あるいは勉強家によるブログ

辻静雄 『舌の世界史』

名門・辻調理師専門学校の創設者、辻静雄によるエッセイ。タイトルは料理史的なものを連想させるが、そこまで堅苦しいものではなく、むしろ、料理をめぐる楽しい食エッセイという趣向……なのだが、単行本として初めて夜に出たのが1969年、いまから50年以上前、当時の辻静雄がまだ30代もなかばだったことに驚愕する。

日本で本格的な「西洋料理人」(洋食屋ではなく)を育てるために、歴史的な料理本を買い集め、そして世界各国の著名レストランを訪ねて回った情熱の人が溜め込んだ知識が本書では惜しげもなく披露されているが、辻静雄が学校を開いたのは1960年、それ以前は新聞記者をやっていて本格的に料理の道へと足を踏み入れてからまだ10年も経っていないのだ。そしてその圧倒的な知識量と質の高さ。出版当時の日本において、本書の内容をどれだけの人が理解できたのか……。洗練された(少し気障な)筆致のなかに圧倒的なホンモノ性がギラついているようだ。

読みながら想起したのは伊丹十三の『ヨーロッパ退屈日記』のこと(1965年)、あるいは『女たちよ!』(1968年)のことである。「スパゲッティは饂飩ではない」と喝破した伊丹十三ほどの攻撃性は、辻静雄にはないにせよ、このホンモノ性は共通している。むしろ大衆への歩み寄らなさでいえば、辻静雄のほうが透徹としたものがあろう。調べたら、このふたりは1933年生まれなのだった。両者は伊丹十三の奇書『フランス料理を私と』の最終回でも対談している。

辻調理師専門学校の全面バックアップのもと伊丹十三が本格的フランス料理を作り、それを食べながら各界の著名人と対談する……という本。最終回で伊丹十三が取り組むのはコンソメである。このセレクトのすごみは辻静雄の著作に触れるとなおさら理解できてくる。

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