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文化的消費活動の日記

ジョナサン・ラスマセン 『ユニコーン企業のひみつ: Spotifyで学んだソフトウェアづくりと働き方』

 

ユニコーン企業のひみつ ―Spotifyで学んだソフトウェアづくりと働き方

ユニコーン企業のひみつ ―Spotifyで学んだソフトウェアづくりと働き方

  • 作者:Jonathan Rasmusson
  • 発売日: 2021/04/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 話題書。著者はアジャイル開発のノウハウを伝える著作で有名なエンジニア・アジャイルコーチ。本書ではSpotifyの話を中心として著名なテック企業でのソフトウェア開発の様子、組織づくりを紹介している。開発プロセスを詳らかにする技術書、ではなく、後者の組織論的なものが中心。

本書のエッセンスは「メンバーに裁量権を渡すこと、信頼すること、情報の透明性を担保すること」の3つに集約されるだろう。これによってトップダウンでなく、ボトムアップで目標に向かう組織が運動しはじめる。いずれも、従来企業(本書の言葉でいうならエンタープライズ企業)とは真逆の文化であり、やり方であり、自分のようなエンタープライズ企業(あるいはそれらをクライアントとする仕事)で働いてきた自分には、眩しすぎる・うらやましい話ばかり。

本書をきっかけにSpotifyスウェーデン発の会社だと知る。本書では、北米型の意思決定をバンバン決めていくやりかたではなく、スウェーデン流のチームで納得するまで議論する熟議型の意思決定について言及しているのも面白かった。表面的にはチームでの同意を重要視する、一方で事前の根回しや調整でほぼほぼ話は決まっている(し、その調整にやたらと時間がかかる)日本の意思決定とはまるで違う。

だから、もう本書で紹介されているカルチャーっていい話なんだけれど、これって日本に馴染むんかいな、っていう疑念もあるのだった。そもそもこれが「良いね!」って思えること自体、日本的な規律や同調を重んじる教育が全然馴染めなくて嫌だった、反(日本)社会的人間、つまり、自分の同種の人間に限定されるのではないか、とさえ思う。

テック企業がそのヴィジョンなり目的なりで結束してワークするのに対し、日本社会って学校の延長で、目的じゃなくそれがルールだから集団を形成しているに過ぎないじゃないですか。ベースが全然違うよね。いきなり裁量持たされたからって困る、って人も多いだろう。なんっつーか、自分はなんのために働いているんだ、みたいな、ともすれば「意識高い系」として揶揄されそうな話からの再定義・問い直しが必要な気がするんだよ。