先日、青森県立美術館のショップで買い求めた『富野由悠季の世界』展の図録。展覧会自体は2019年〜2022年まで全国の美術館を巡回しており、この図録自体もわたしが持っているもので4刷となっている。行ってない展覧会の図録を買う、って個人的なポリシーからは外れるのだが、ガンダム……というか富野由悠季のファンならマストバイの一冊であろう。単なる図録の枠組みを超えて浩瀚な富野由悠季研究として成立しており、大変な読み応えである。生い立ちから展覧会当時に製作中だった『Gレコ』の映画版までを捉えており、展覧会でこんなヴォリュームの展示をされたら体力的に観覧仕切るの難易度が高そうであるので、図録で仮想体験するのがちょうど良かったかもしれない……とさえ思う。
本書でサンライズがもともと手塚治虫の虫プロ出身者によって創立された、という事実を知って改めて手塚治虫という人のすごさを知ったりもする。あと驚いたのは1974年製作の短編「しあわせの王子」(ワイルド原作の有名な童話)の監督を富野由悠季が手掛けていた、ということ。小学生ぐらいのときにこの作品を観た記憶が(たしか家の近くの集会場で開催された子供会で、古めかしい投影機で上映されたものをみんなで観たのだ)蘇ってきた。
ガンダム関連のパートでは富野由悠季自身によるモビルスーツのラフスケッチも載っていてエルメス、ビグザム、ゲルググ、ジオングなどはラフで完成形に近い。富野由悠季の仕事において面白いのは、商業的な制約(おもちゃ会社をスポンサーにしたアニメ製作ビジネス)やプロデューサーという外部からの指示といった外部環境に従ってクリエーションをおこなっていることであって、それはジブリにおける宮崎駿・高畑勲の仕事ぶりとは大きく異なる。言い方を変えれば、注文に応じる制作者なのであって、自発的な制作を行う近代的な芸術家の在り方とは異なる、ということになるだろう。芸術家よりも、建築家の仕事の仕方に近い気がする。
一点、この記述はどうなんだ、と思ったのは「Zガンダム」に登場する女性キャラについて取り上げている部分。フォウ・ムラサメに関して「ララァがシャアとアムロを結びつけたのに対し、カミーユとフォウの関係は1対1の恋愛で終わった」とあるが、いや、ジェリドとの因縁がより深まっただろうし、そもそもファとカミーユの結びつき自体が、フォウを失ったことでしか進展しなかっただろう(そういう意味ではファというキャラクターの都合の良さが可哀想過ぎるのだが……)と思う。