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文化的消費活動の日記

三笘薫 『VISION 夢を叶える逆算思考』

もうすぐ6歳になる息子が知ってるスポーツ選手といえば、野球の大谷とサッカーの三笘のふたり。わかりやすくスポーツ選手に憧れていて、こないだはエンゼルスのキャップを買わされたし(New Eraのエンゼルスキャップはキッズサイズがあらゆるモデルで生産待ちなのだという。'47なら普通に買えた)、本屋で三笘が表紙の「Number」を買ってもらっていた。

で、こちらは三笘選手の初の著書。スポーツ選手の本としてはかなり厚い部類の本だと思う。300ページぐらいあって1500円、と普段学術書とか海外文学ばっかり買い込んでいる自分にとっては破格のプライス。子供にサッカーを教える参考になるかと読んでいたのだが、子供の頃からストイックな感じがビンビンに感じられてすごい内容。ストイックだし、合理的である。このあたりは大谷とかダルビッシュにも通ずるところだが、トレーニング理論や栄養学を基盤に「仕事をしている」という印象をもった。こないだ読んだ「Number」の三笘のロング・インタヴューでもチームで週一採血があって、血液中の疲労物質の数値を見ながら練習メニューを組み立てていると語っており、そこまでやるか(ここまできてるのか)とも驚く。

大変おもしろい本ではあるのだが、トップ・アスリートの世界は、これからサイエンス(エヴィデンス)的なものがあらゆるところに入り込んでいて隙間がなくなっていくのだろうか、という疑問も浮かぶ。夜遊びしないで寝まくる大谷に象徴されるように生活のなかから競技のため「じゃないもの」が排除されていく、つまりは「昔の野球選手」や「昔のサッカー選手」はありえなくなっていく。それによって成功するアスリートは増えていくだろうけれど、果たしてそのような遊びのない世界が良いものなのかは考えものだ。遊びがある世界のほうが豊かである、とも感じるし、ヨーロッパで活躍する超一流選手には、遊びもすごいがサッカーもすごい、みたいな人もいるはずである。日本人にはその両立は無理なのか……と考えるのも残酷だこの遊びのない世界、隙間のない世界を子供に強要するのは倫理的に許されない、とも思う。