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文化的消費活動の日記

岩間一弘 『中国料理の世界史: 美食のナショナリズムをこえて』

2022年のサントリー学芸賞受賞作のひとつ。「中国料理の歴史書」のようなタイトルになっているが「中国料理世界史」のほうが本書の内容を捉えている。もちろん中国料理の発展についても触れられているのだが、主題とされるのは料理や食品よりもむしろ人間の移動・移民であり、本書における中国料理の歴史は、その移動によってもたらされた文化が移動先でどのように受容され、変容していったかがメインとなる。

料理の話をもとめて本書を開くと、中盤はひたすら近代から現代において中国系移民がアジア各国でどのように定着し(ときには厳しい迫害を受けながら)いまに至っているのかの話が延々と続くので面食らうことになるだろう。中国(あるいはその周辺諸国)での政情の変化などによって元々住んでいたところから押し出されるようにして移動していく人間の波。それは現在もなお認められる動きだろう。自分に身近な例をあげるならば、中国国内での受験戦争や就職難を避けるために日本語を学び、日本のIT業界で働く中国系の人たちもその流れの一部だと思う。

本文が600ページ弱で税込2750円は破格だが、地理的な話も重要なトピックにも関わらず、地図が一切入っていないのが残念*1

*1:またフランスでの中国料理の受容を扱った箇所では、ロゼワインが「美食の観点からは低く見られており、真っ当なワインとは見なされていなかった」のが、中国料理とロゼワインのマリアージュによってロゼワインの価値が見直された、という話がでてきて目を疑ったりもする(ワイン関連の教科書的なものを読んでも、ロゼワインが真っ当なワインだと見なされていなかった、みたいな話は目にしたことがない)