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文化的消費活動の日記

ダニエル・パウル・シュレーバー 『ある神経病者の回想録』

いまから120年ほど前にドイツの優秀な裁判官だった男性が記した本。男性はいまで言うところの統合失調症で、病気に起因する体験を克明に記録している。フロイトにも衝撃をあたえた本書は、精神病院での臨床経験が少なかったフロイトの理論構築のための大いなる材料となったという……。歴史的にはかなり価値がある本だと思うのだが、中身はものすごい奇書だろう。妄想・幻覚・幻聴を大量に書き連ね、それをクレペリン精神疾患に関する著作(おそらくは当時最新の知識)と照らし合わせて分析し、さらに独自に神学的理論・コスモロジーを構築してしまっている。

面白いのは、著者であるシュレーバーが病識(自分で自分のことを病気だと自覚があること)を持ちながら「世界の真理がわかっちゃった」という信念(正確には、光線通信によって神からもたらされた真理)も揺らいでないことで、そこって両立すんの!? と衝撃だった。

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松本卓也の『症例でわかる精神病理学』でも本書への言及があるが『回想録』にある症状の数々をこうした病理学的な知識をもとに読み解いていくのも面白い。妄想を例にとっても、治療にあたっている医師からの迫害妄想や、関係妄想、自分の考えが全部光線通信によって外部に記録されている!という考想伝播など典型的なものが多々出てくる。