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文化的消費活動の日記

土井善晴 『味つけはせんでええんです』

土井善晴先生の新刊。帯に「雑文集」とあるが話題がとにかくころころと転がっていく、変わっていく。しかし、その自由な流れがいわゆるフローに入っているようで(その変化は本書でも名前がでてくる坂口恭平のものを想起させもする)気持ちが良い。「味つけはせんでええんです」。それにしてもすごいタイトルで見た瞬間に「来るべきバカ(千葉雅也)」かと思ったし、脱構築的でもある。いまの思想の言葉と共鳴する内容が綴られていることも興味深い。

人間が我を忘れて、自我を最優先するのはなぜでしょう。料理する人への思いやりを忘れ、文句を言うのはなぜですか。他者を思いやる気持ちがないのは、明らかに想像力(イマジネーション)の低下です。
「それはね、おいしいものの食べすぎなんですよ」と、私が言えば、また「それは言いすぎでしょ」「なにを根拠にしているのですか」って、みなさん、おっしゃるでしょう。

たとえばこのアンチ・エヴィデンス! 「なにを根拠にしているのですか」という問いには「正しさ」の囚人のようなそぶりの愚かしさが風刺されるようである。ポリティカル・コレクトネス、あるいはエヴィデンスに駆動され(正しいこと、根拠があることの気持ちよさにハックされた、と言ってもいいのかもしれない)主体を失いつつある人間のふるまいへの警鐘は東浩紀の『訂正可能性の哲学』でも触れられていた。

人間はひとりでは生きていけない。その前提は正しい。しかし、高度に分業化された資本主義社会(さらには来るべきシンギュラリティ)において自立/自律する力はますます弱くなっている。筆者が坂口恭平の生き方を絶賛しているのは当然のことで、自分でなんでもやる、自立/自律があるからだ。本書に書かれた食を媒介にして自律を促す主張は自分にとって「そうは言っても……」的なものでもあるのだが、子供に教えるべきこと、とはこういうことだよな、とも思う。自分で考えるためのこと。

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