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文化的消費活動の日記

ルシア・ベルリン 『すべての月、すべての年』

アメリカで出版されたルシア・ベルリンの短編集『掃除婦のための手引書』(2015年)から、2019年に邦訳された『掃除婦のための手引書』に収録されていなかった作品を収録したもの。『掃除婦のための手引書』もかなり衝撃的に読んだが、本書も素晴らしかった。著者の人生、生活のなかで見てきたであろうものごとが反映された作品群。そこではアルコール中毒や薬物の乱用、それから暴力が身近にあるタフな生活が描かれている。そのリアリズムの調子から、急に非現実的なエアポケットに落とされるような描写を挟む独特なリズムが笑えて、グッと惹きつけられる。このテクニックに限っていえば『すべての月、すべての年』のほうが多投されているように思われて好きだった。

ただ、読んでいるうちに意地が悪い見方もできてしまうな、と思ってもしまう。ルシア・ベルリンの作品のなかに登場する愚かしい人物、愚かしいだけでなくペーソスをも携えた人物が与えるおかしさ、これもまた作品の魅力であるのだけれど、その愚かしさにおかしさを覚えてしまうそのセンスには、オリエンタリズム的なものはないだろうか、と。(アルコールなどさまざまな問題を抱えてはいるが)知的な語り手が愚かしいものに触れ合い、知的な世界にはないワイルドな魅力を感じ、楽しんでしまうこと。所ジョージの番組でテレビ局のスタッフが田舎のおじいさんと出会って面白い瞬間を切り取ってくることに近い。ハートフル、であるけれども、そこに問題はないんだろうか。もちろん、ルシア・ベルリンにはあからさまに差別的なまなざしはないのだけれども……。note.com